ヘルステックとは「ヘルス(health)」と「テクノロジー(technology)」を合わせて作られた言葉のことです。医療に関するテクノロジーのことを指します。ヘルステックをうまく導入することで、これまで人の手だけでは難しかった健康管理や、より先鋭的な医療の提供が可能になります。
テクノロジーと聞くと病院で行われているような最新医療を想像してしまうかもしれませんが、そうとは限りません。私たちの生活は、さまざまなテクノロジーに取り囲まれています。
最近では自動運転の車や、タブレット端末を用いた教育なども出てきました。もちろん医療現場でもヘルステックと呼ばれるテクノロジーがどんどん進化しています。
断食アプリとプレシジョンヘルスのクラウドプラットフォーム
米国の主要ながんセンター向けに、プレシジョン(精密)ヘルスクラウドプラットフォームやモバイルアプリを開発する米LifeOmic社。同社の「LIFE Fasting Tracker」と「LIFE Extend」と呼ばれるモバイルアプリに新たな機能が追加される。これらのアプリはそれぞれ、断続的断食とプレシジョンヘルスのアプリであり、2019年にはアプリを使って100万人以上のユーザーがダイエットに成功するなど、ユーザーの健康的な生活をサポートしている。
引用元:https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/news/19/00104/?P=2
今回、ヘルステックどのようなサービスがあるのか、どういった事業がヘルステックを提供しているのかご紹介します。
ヘルステックとは|定義と市場規模
ヘルステックの定義は?
ヘルステックという概念に明確な定義はありませんが、冒頭でもご紹介した「ヘルス(Health)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語であり、「金融(Finance)」とテクノロジーを組み合わせた「フィンテック(FinTech)」、「法律(Leagl)」とテクノロジーを合わせた「リーガルテック」という言葉を耳にする機会も多いかと思いますが、ヘルステックもそうした新産業の一環だと認識していただければと思います。
参考:「ヘルステック」が実現する、超高齢化社会の正しい健康管理の在り方
具体的には、クラウドコンピューティング(クラウド)、スマートフォンやタブレットなどのモバイル、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ウエアラブルデバイスなどの技術を活用し、これまでは存在しなかった革新的なサービスを開発することです。
ヘルステックの市場規模
先にヘルステックの市場規模がどれくらい拡大しているのか、富士経済グループが発表しているデータを元にご紹介します。2017年の時点でヘルステックの市場規模は2,055億円でした。これはおよそYou Tubeの動画広告や電子書籍の市場と同じくらいです。
引用元:企業による従業員向けサービスで需要増加が期待されるヘルステック・健康ソリューション関連市場の調査結果 | プレスリリース | 富士経済グループ
これが2022年になると3,083億円規模にまで市場が拡大すると予想されています。わずか5年で1,000億円もの伸びです。市場規模3,000億円といえばAIや今後導入される5Gの予測市場に匹敵します。ヘルステックは今まさに注目されている大きな市場だと言えるでしょう。
JEITAは、電子情報産業の世界生産見通しと、5G/ローカル5Gの世界需要額見通しを発表した。電子情報産業の世界生産額は2020年には3兆807億ドルと過去最高になる見込み。ローカル5Gは2020年に立ち上がり、国内では2025年に3000億円に達すると予測した。
引用元:国内ローカル5Gは2025年に3000億円 JEITAが5Gの世界需要見通しを発表 | ビジネスネットワーク.jp
ヘルステックが注目される背景とは?
急激な市場拡大が予想されているヘルステックは、なぜここまで大きな注目を集めているのでしょうか。市場拡大の背景には「医療費の増大」という避けて通れない課題があります。
医療費の増大が危惧されている2025年問題
ヘルステックは医療費の増大問題にも役立ちます。2025年問題というのをご存知でしょうか。2025年は第一次ベビーブームで生まれた世代が後期高齢者(75歳以上)になる年です。多くの方が一度に後期高齢者になることから、医療費の増大が危惧されています。
後期高齢者になるといくつもの疾病を抱えるリスクが高くなることから、これまでになく医療費が増加するのではと心配されているのです。2016年では
- 64歳までの1人あたりの医療費:平均18.3万円
- 66歳から74歳までの1人あたりの医療費:平均55.3万円
- 75歳以上の1人当たりの医療費;平均91.0万円 です。
これが2025年になると134万円まで増えると予想されています。国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上となる2025年。しかし懸念されているのは医療費の増大だけではありません。
後期高齢者が増えるということは、それだけ提供すべき医療の量も質も、そして介護に回る手もこれまで以上に必要となります。ところがこのままでは、増えていく高齢者の数に追いつくほどの医療施設や医療従事者を備えることができません。そこで活躍が期待されているのがヘルステックです。
ヘルステックの技術によって健康をもっと管理できるようになれば、疾病を抱える方を減らせます。また後期高齢者の方だけではなくすべての方がヘルステックにより健康管理をもっと身近にすることで、医療費の削減へ貢献することが期待できるでしょう。
生活習慣病の増加
日本人の約3割がガンで亡くなっていることは広く知られていますが、生活習慣病で亡くなる方が約6割もいることは知らない方も多いかもしれません。
参考:瀬戸市国民健康保険特定健康診査等実施計画(第3期計画)・ 資料4
生活習慣病とは名前の通り生活習慣が原因となって起こる高血圧や糖尿病、脂質異常症などの疾患のことです。生活習慣病の患者を減らすことも医療費の削減につながります。食事や運動管理、生活習慣病対策のレシピが見られるアプリが出ているので誰でも気軽に生活習慣の見直しが可能です。
医師不足
日本全国にまんべんなく医師がいるわけではありません。人口10万人あたり何人の医師がいるかを調べた厚生労働省のデータによると、東京都では300人以上いるのに対して埼玉県ではわずか150人しかいません。
全体的に医師は不足している傾向にありますが、地域によってはより医師不足が深刻です。医師が不足するとゆっくり診察する時間を取れなかったり、医師の労働環境が悪化して体調を崩してしまうケースもあるでしょう。
ヘルステックが浸透すれば、医師不足の地域でも医療を受けられるようになることが期待されています。また個人で生活習慣病の予防をしやすい環境を整えることで、医療機関を受診する患者さんの人数も減らせるでしょう。
ヘルステックがもたらす技術と主なサービス事例
これからますます広がりを見せていくと予想されているヘルステック。現段階でもすでにさまざまなサービスが展開されています。その中でもとくに私たちの暮らしに密接するものを3つ見てみましょう。
遺伝子検査
遺伝子検査では将来おこる確立の高い疾患を調べたり、肌質や太りやすさなどが分かったりします。遺伝子検査と聞くと病院に行って採血して…という場面を思い浮かべるかもしれませんが、実は自宅にいながら簡単に検査可能です。
多くの遺伝子検査キットは、頬の内側を綿棒でこするか唾液を専用容器に入れるだけで完了します。簡単に自分の遺伝子から健康管理に役立つ情報を得られるサービスです。
AIによる診断支援と予測
C TやMRIの医療機器テクノロジーが進化していく反面、膨大な数の医療画像を診断しなければならない医師の負担は増える一方です。ヘルステックは画像解析技術にAI技術を応用することで効率化を促進し、医師の負担軽減だけではなく、画像診断の精度を常にアップデートすることが可能になります。
オンライン診察・オンライン服薬指導
病院に行かないと診察を受けられない、薬局に行かないとお薬の説明を受けられない。住んでいる場所や体調によっては具合が悪いのになかなか外に出られないこともあるでしょう。そのような方のためにオンライン診察やオンライン服薬指導のサービスが開発されました。
一度は病院で診察を受ける必要がありますが、2回目からはオンライン診察用のアプリをダウンロードするだけで自宅にいながら診察を受けられるようになります。オンライン服薬指導も同様にアプリはビデオ通話などを利用してお薬の説明を受けるものです。
ネット上の服薬相談
例えば、日本薬剤師協会が行なっている「eお薬手帳」もヘルステックサービスの一環ですね。
使用している薬の名前や使い方などに関する情報を、過去のアレルギーや副作用の経験の有無と併せて、経時的に記録するためのもののサービスで、診察や調剤を受ける際、医師や薬剤師に提示することで、薬の重複や飲み合わせのチェック、アレルギー歴や副作用歴の確認などが可能となり、 より安心して薬を使用できます。
睡眠改善アプリ
アプリをダウンロードして、寝る時に起きる時間の設定するだけで睡眠スコアを見られるサービスです。睡眠時間や熟睡度、最適な睡眠時間などがアプリの分析から分かります。約80%の方がもっているスマオートフォンを活用したヘルステックの事例です。
参考:総務省|平成30年版 情報通信白書|情報通信機器の保有状況
睡眠改善アプリの他に体重コントロールや排便、お薬の服用状況を管理できるアプリも多くリリースされています。まさに時代に合わせたテクノロジーだと言えるでしょう。
QOL向上に役立つ「IoMT」
IoMTとは「Internet of Medical Things」の略で、さまざまな医療機器やデバイスをヘルスケアシステムとインターネットでつなぎ、リアルタイムでの医療・健康情報の収集や解析を可能にする技術や概念のことです。QOL(Quality of Life)は生活の質を表す言葉です。
具体的には、医療機器に「Wi-Fi」や「Bluetooth」を搭載すれば、医療情報をヘルスケアシステムとネットワークで結ぶことが可能です。
医療は必ずしも良い結果を生むとは限りません。せっかく治療をしたのに日常生活に不便を感じてしまっては意味がありませんので、IoMTによって蓄積された広範なデータを利用することで、治療後の患者のQOL向上にも貢献できる可能性があります。
介護支援ロボット
超高齢社会にある日本で注目を集めているのが「介護支援ロボット」です。介護支援ロボットは、主に「介護支援型」「自立支援型」「コミュニケーション・セキュリティー型」の3 種類に大別されます。
介護支援型とは、主に移乗・入浴・排泄(せつ)など介護業務の支援をするロボットのことです。自立支援型は、歩行・リハビリ・食事・読書など介護される側の自立を支援します。
ウエアラブルデバイスの活用
ICT機器は日々進化を続けています。身体に身に付けるコンピューター「ウエアラブルデバイス」もその代表で、身に付けることでバイタルデータを日々自動的に記録できます。ウエアラブルデバイスは、医療機器に分類されるものではあり ませんが、病を抱える患者が自分の体の状態を見える化し、治療に役立てることができます。
今後注目のヘルステック企業5選
ヘルステック市場は、年々盛り上がりを見せており、これまではプレーヤーが限定されていましたが、異業種の企業やベンチャー、スタートアップ企業が次々と参入して新しい価値を持ったサービスを開発、提供しています。
では具体的にどういった企業がどのようなヘルステックサービスを提供しているのかを見ていきましょう。
ここでは特に注目しておきたい5つの事例をご紹介します。
株式会社DeNAライフサイエンス|マイコード
公式サイト:https://mycode.jp/
マイコードは自宅で遺伝子検査をするためのキットです。専用の容器に唾液を採取してポストへ投函するだけで最大280もの項目を検査してくれます。ポスト投函から約2か月でお手元に検査結果が届きます。各疾患の発症リスクが平均と比べて何倍なのか、発症リスクを下げるために摂りたい栄養素は何なのかなど詳細に分かるのが魅力です。
また生活習慣を見直すためのアドバイスも掲載されているので、遺伝子検査の結果に合わせたライフスタイルの見直しができます。
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社|DFree
公式サイト:https://dfree.biz/
DFreeは排尿コントロールをサポートするためのサービスです。膀胱の膨らみを超音波で計測することで、排尿のタイミングを使用者にお知らせします。スマートフォンと連動することで尿のたまり具合が10段階でいつでも確認可能です。
介護が必要な方に使えば「そろそろトイレかな?」「おむつを変えたがいいのかな?」ということがすぐにわかります。他に急な尿もれが心配な方や尿意を感じない疾患をお持ちの方にも活用できるサービスです。
株式会社Welby|まいさぽ
公式サイト:https://welby.jp/service/maisapo/
まいさぽは、スマートフォンのアプリで生活習慣病の予防ができるサービスです。食事や運動、お薬や血糖値などの記録ができます。また生活習慣病を予防するためのレシピも公開されているので、食習慣からしっかりと変えていけるアプリです。
生活習慣病に関する知識が掲載されていたり、クイズで疾患について学べたりといったコンテンツも用意されています。記録した内容をシェアする機能もついているので、自分一人ではなくみんなで健康管理を続けられます。
株式会社メドレー|CLINICSオンライン診療
公式サイト:https://clinics.medley.life/
CLINICSオンライン診療はオンライン診療を可能にする、医療機関向けのサービスです。予約管理からオンライン問診や診療、決済まですべてがCLINICSオンライン診療で行えます。
患者ごとに「検査待ち」や「レントゲン」、「検査済み」などのラベルを表示できるため効率よくかつミスなくオンライン診療を進められるでしょう。もちろんオンラインで使用するものなのでセキュリティー体制も抜群です。
サンスター G・U・M|PLAY
公式サイト:https://www.gumplay.jp/
「みがき方をみがく」をコンセプトにしているG・U・M PLAYは、いつも使っている歯ブラシに専用のアタッチメントをつけるだけでみがき方の記録ができます。みがき方に癖や偏りがあると、みがいたつもりになっているだけで汚れが残っていることも少なくありません。
G・U・M PLAYは歯科衛生士のブラッシングデータをもとに正しくみがけるサポートをしてくれるので、歯の健康を保つのに役立ちます。
まとめ
ヘルステックとは医療とテクノロジーをかけ合わせた技術のことです。一人ひとりが意識をもって健康管理に取り組むことで医療費の削減につながるでしょう。医療費が急激に増大すると予測されている2025年に向けて、ヘルステックは今後もますます増えていくことが予想されます。
今後どのようなヘルステックサービスが出てくるのかも楽しみです。病院に行かないとできなかったこと、誰かの手を借りないといけなかったことがもっとスムーズにできる社会をヘルステックが作ってくれることでしょう。