低血圧だと立ちくらみやふらつきが出やすく、日常生活で困ることもしばしばあります。病院に行くほどではないけど、症状がたまに気になる方は市販品を使って対策してみるのも良いでしょう。
病院で貰うようなお薬はありませんが、漢方薬で低血圧の対策が可能です。
今回はどうやって低血圧の市販品を選んだら良いのか、商品ごとの違いは何かなどについて詳しくご紹介します。日頃の生活でできる対策も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
薬剤師が教える!低血圧に期待を寄せる市販品の実態
すべての低血圧が市販品で対策できるわけではありません。まずは低血圧の定義とその種類について見ていきましょう。
低血圧とは一般に、100/60mmHg以下のことを指します。通常の方ですと、120/80mmHg前後なので、だいぶ低くなっていることが特徴です。
血圧が低いことがそのまま病的な状態であるとはかぎらないので、低血圧の基準も高血圧の基準ほどは重要視されておらず、臨床医によって意見の違いもあります。 現在、WHOでは世界共通の基準として、収縮期血圧100(mmHg)以下、拡張期血圧60(mmHg)以下を低血圧としています。
引用元:4.低血圧 | 薬事情報センター | 一般社団法人 愛知県薬剤師会
低血圧は大きく急性低血圧と慢性低血圧の2種類
急性低血圧
常に血圧が低いのではなく、一時的に血圧が下がってしまう状態です。たとえばベッドから起き上がったときに血圧が下がる起立性低血圧、食後に下がる食後低血圧、排尿すると下がる排尿後低血圧などがあります。
慢性低血圧
他の疾患が原因で血圧が下がっていたり、とくに原因がないのに低血圧の状態が続くものが慢性低血圧です。もともと生まれつき血圧が低めの方も、慢性低血圧に分類されます。
市販品で低血圧の上圧は難しい
他の疾患が原因となって血圧が下がる場合は、そちらの疾患を治療することが第一です。そのため市販品で対応するのは難しくなります。一方で他の低血圧は市販品でも対応できる場合があります。
病院で貰える低血圧治療薬の実態
ところで、病院で低血圧の治療をするときに貰えるお薬がどのようなものかご存知でしょうか?低血圧のお薬には、交感神経を刺激するものと血管を収縮するものの2種類が主にあります。
血管を収縮すると血圧が上がるのは、血液の通り道が狭まることで心臓がより強い力で血液を押し出さなければいけなくなるからです。交感神経を刺激するものにはメチル硫酸アメジニウム、血管を収縮するもにには塩酸ミドドリン、塩酸エチレフリンなどがあります。
しかしこれらのお薬は、どれも市販品では扱いがありません。そのため市販品で低血圧を改善するには、他のお薬を使って対策する必要があります。
どのようなお薬を使うのかというと、漢方薬です。漢方薬は体質に合わせて選ぶ必要があるため、のちほど選び方を詳しくご紹介します。
市販品でも低血圧の対策は可能ですが、病院と同じ薬の扱いがないため漢方薬の対策になることをまずは覚えておきましょう。
低血圧の昇圧が期待できる薬の選び方|着目すべきポイント
風邪には葛根湯、鼻炎には小青竜湯など症状と漢方薬を結びあわせて売られているものも多いです。しかし本来は、症状から漢方薬を選ぶのではなく体質から選ぶことが正しいとされれています。
そのため漢方薬を選ぶ際は、自分の体質をしっかり観察して選ぶことが大切です。ここでは低血圧に使える漢方薬を選ぶために、チェックするべき項目をいくつかピックアップしました。自分はどの体質なのかを今一度、確認しておきましょう。
1:体力があるか
漢方薬を選ぶ上では、体力があるかないかがとても重要になります。体力がある方を「実証」、ない方を「虚証」と呼ぶことが特徴です。漢方ではこのように体質を見ることがもっとも重要だと言われています。以下に当てはまる方は実証だと考えられるでしょう。
- 血行が良い
- 体型がガッチリしている
- 食欲旺盛
- 疲れにくい
- 声が大きい
いわゆる「体育会系」と呼ばれるような方がこの実証に分類されます。
2:顔色が悪かったり疲れやすかったりしないか
実証とは逆に、体力がない虚証の方は以下に該当することが多いです。
- 顔色が悪い
- 痩せ型
- 食欲があまりない
- 疲れやすい
- 声が小さい
上記に該当する特徴があって、水太りの傾向がある方も虚証だと考えられます。西洋薬を使うときは気にしないような体型や声の大きさ、体力が関係してくるのは漢方薬の面白いところだと言えるでしょう。
実証と虚証について簡単に説明をしましたが、どちらにも該当しない「中間証」の方もいます。どちらの要素ももっていると感じた方は、実証でも虚証でも使えるタイプの漢方薬を選ぶと良いでしょう。
3:胃腸が弱いほうか
低血圧があっても胃腸が強い方もいれば、弱い方もいます。漢方薬の中には胃腸に負担をかけやすい生薬が入っているものもあるので、胃腸の状態に合わせて選ぶことが大切です。ちなみに胃腸が弱い方は、虚証である可能性が高いと考えられます。
4:手足が冷えやすいか
血圧が低い方は手足も冷えやすい傾向にありますが、すべての方に冷えが見られるわけではありません。手足が冷えやすい方によく使われる漢方薬もありますので、ご自分の冷えの状態を確認しておきましょう。
5:頭痛があるか
頭痛が起きやすい方に向いている漢方薬もあります。漢方薬を選ぶ1つの目安となりますので、こちらも今一度チェックしてみましょう。
薬局で低血圧の適応が期待できるおすすめの漢方薬
ここからは実際に低血圧の治療に使われる漢方薬を5つご紹介します。ドラッグストアや薬局でよく見かけるものもあれば、あまり置かれていないものもありますので、もし近くのお店で見つからない場合はネットショップなども利用して探してみてください。
それぞれの漢方薬について、特徴やどういった体質の方に向いているのかも解説していきます。
1:真武湯(しんぶとう)
真武湯は面白いことに、低血圧だけでなく高血圧の方にも用いられます。他に下痢や風邪、腎疾患などにも使われることが特徴です。以下のような体質の方に適しています。
- 疲労感や倦怠感が強い方
- 胃腸が弱い方
- 手足が冷えやすい方
1-1:なんで良いのか?
真武湯は、心臓の働きにアプローチして整える効果があります。そのため低血圧だけでなく高血圧の治療にも使われるのです。体力や新陳代謝が低下すると、腎の働きが悪くなります。腎とは、漢方では成長や発育に関係すると言われる場所です。
この腎の働きを改善して温める附子や生姜、芍薬などが配合されているため、血圧の改善ができます。腎の働きが良くなると手足の冷えも改善されるため、冷えが生じやすい方に向いている漢方薬です。
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2:八味地黄丸(はちみじおうがん)
高齢者の尿トラブルに処方されることの多い八味地黄丸ですが、倦怠感や冷えを伴う低血圧の症状にも適しています。以下のような体質の方に向いているお薬です。
- 倦怠感が強い方
- 手足は基本的に冷えやすいがほてることもある方
- 尿量が減ったり増えたりした方
2-1:なんで良いのか?
八味地黄丸は、老化によるトラブルで使われることが多いです。年齢を重ねると、体を温める働きが低下していきます。手足が冷えやすいのはこのためです。
体を温める働きをサポートする桂皮や附子が配合されており、これによって体が温まることで水の代謝が良くなって血圧も改善されます。
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3:半夏白朮天麻等(はんげびゃくじゅつてんまとう)
めまいによく使われる漢方薬です。とくに高齢者で手足が冷え、めまいがする方に向いています。以下の体質の方に使われることが特徴です。
- めまいがある方
- もともと胃腸が弱い方
- 食後に手足がだるくなりやすい方
3-1:なんで良いのか?
半夏白朮天麻湯は、食欲不振にも良い漢方薬として知られています。食事で取り入れた栄養素をエネルギーに変える働きが弱ると、体が冷えたり疲れやすくなったりすることが特徴です。
配合生薬がエネルギーを作る脾の働きをサポートし、水の吸収を良くすることで症状を改善します。エネルギー不足も水の吸収の悪化もめまいを引き起こす原因となるため、半夏白朮天麻湯はめまいの治療に適しているのです。
血圧が低くめまいの症状があり、胃腸が弱いなど症状がある方に使いやすくなっています。
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4:補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
体力がない方に使われることの多い補中益気湯は、低血圧の他に術後の体力回復や食欲不振、微熱や立ちくらみなどさまざまな症状に用いられます。以下の体質の方に適している漢方薬です。
- 体力がない方
- 食事をおいしく感じない方
- 頭痛がある方
4-1:なんで良いのか?
補中益気湯は、とにかく疲れやすい方に向いている漢方薬として知られています。体力がなく倦怠感が強い、胃腸が弱いなど症状がある方に使われるものです。
ただ胃腸が弱いだけでなく、食べても味があまりしないといった症状がある方に向いています。食べたものからエネルギーを作り出す脾の働きをサポートする人参や白朮、胃の働きを改善する陳皮や生姜などが配合されていることが特徴です。
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5:十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
十全大補湯も術後の体力回復や食欲不振などに用いられる漢方薬です。もちろん低血圧の治療にも用いられます。以下のような体質の方に適しているお薬です。
- 体力がない
- 顔色が青く、ツヤがない
- 体が冷えやすい方
5-1:なんで良いのか?
十全大補湯が低血圧に使われるのは、血の流れを良くする働きがあるからです。血の流れが悪いと立ち上がったときに立ちくらみを起こしたり、普段から体が疲れやすくなったりします。
配合生薬の川きゅうや当帰が血の流れを良くし、地黄や芍薬が血を補ってくれる処方です。補中益気湯と似ている処方ですが、貧血のような血がたりない症状が強い方は、こちらの十全大補湯が適しています。
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立ちくらみ、低血圧の改善を薬に頼るのはリスクがある?
立ちくらみや低血圧を薬で治療することに特別大きなリスクはありません。もちろんリスクがないからといって副作用がまったく起きないとは言えないので、こちらはご注意ください。
立ちくらみの原因を理解せずに治療することはリスクになる
立ちくらみの原因はさまざまです。これまでお話してきた低血圧でも起こりますし、貧血や低血糖でも起こります。しかし立ちくらみが起こると、貧血だと思いこんでしまう方が意外にも多いことが現状です。
貧血だと思って市販品の鉄剤を買いに来られる方は、驚くほど多いです。
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="" align="left" border="gray" bg="none" style=""]つまり本当は貧血じゃないのに、立ちくらみが出たからといって貧血だと思いこんで鉄剤を使う方が多いということです。[/chat]
鉄剤は副作用で吐き気や食欲不振が出やすい
鉄剤は副作用で吐き気や食欲不振が出やすいことをご存知でしょうか。つまり、貧血でもなんでもないのに鉄剤を飲むことは、立ちくらみが治るどころか副作用で余計に具合が悪くなってしまう可能性があるのです。
そのため、立ちくらみ=貧血と考えるのは止めましょう。立ちくらみが気になるようでしたら貧血だと決めつけずに医療機関で診察を受け、原因を明らかにしましょう。そうでないときちんとした治療を進められません。自宅に血圧計がある方は、自分で血圧を計ってみるのも良いですね。
立ちくらみ=貧血と決めつけないこと
とにかく立ちくらみが出たら貧血と決めつけず、原因をしっかり調べて治療を行うことが大切です。逆に低血圧かと思っていたら貧血だったというパターンもあるので、やはり医療機関を受診しておくと安心できます。
薬に頼らず低血圧を改善するには?
薬を飲まずに低血圧の対策をすることもできます。薬を飲むほどではないけど立ちくらみやめまいなどが気になる方は、これからご紹介する5つの対策方法をぜひ試してみてください。
1:運動する
運動は低血圧の改善にとても重要です。とくにもともと血圧が低めの方は、積極的に運動を取り入れましょう。有酸素運動も良いですが、おすすめは筋トレです。
そもそも十分な筋肉量がないと、体は全身に十分な血液を送ることができません。すると立ち上がったときに頭部へ十分な血液が回らず、立ちくらみを起こしてしまうのです。
ふくらはぎは第2の心臓とも呼ばれていますので、時間がない方はふくらはぎのトレーニングをおすすめします。
踏み台昇降やスクワットなど、簡単な運動で鍛えられますのでぜひお試しください。なお立ちくらみやめまいなどが強い場合は、ムリに体を動かさないことも大切です。
2:水分をこまめに摂取する
血圧が高い方は利尿薬を使って血液の水分量を減らし、心臓が送り出す血液量を減らすことで血圧を下げます。逆に血圧を上げたい場合は、水分量を増やすことが有効です。
胃腸に負担がかからない程度で、こまめな水分摂取を心がけましょう。
3:急に動かない
とくに起立性低血圧の方は、急激な動作を行わないように注意してください。ベッドから起き上がるとき、椅子から立ち上がるときなど体が低い状態から高い状態になるときは血圧が下がりやすくなります。
ゆっくり立ち上がるよう心がけましょう。食後に低血圧が起きやすい方も同様です。すぐに椅子から立ち上がらず、ゆっくり立ち上がってください。
起立性低血圧の方は、他に着圧タイプのストッキングも有効です。足から腰まである対応の着圧ストッキングを使うことで、体の下にたまりがちな血液を上部へ流れやすくするのです。
また塩分を1日あたり6~10g程度増やすことも有効だと言われています。塩分を摂ると、血液を薄めるために血管へ水分が集まるため血圧が上がりやすくなります。
4:カフェインを摂取する
食後に低血圧になりやすい方は、食事の後にカフェインを摂取すると症状が起こりにくくなります。カフェインには交感神経を刺激する働きがあるので、血圧を上げてくれるのです。食事と一緒に緑茶を飲んでも良いですし、食後にコーヒーで一休みしても構いません。
夜にカフェインを摂取すると眠れなくなる方は、朝やお昼だけ摂る方法でもOKです。ただし飲みすぎるとカフェインの利尿作用が働いてしまうので注意が必要しましょう。人によってはカフェインの影響で胃を痛めてしまうこともあるので、適量を摂ることが大切です。
5:バランスの良い食事を心がける
栄養不足になると、血圧に関係なくふらつきや立ちくらみが出やすくなります。低血圧の症状を悪化させる可能性もあるので、栄養バランスの良い食事を摂るよう心がけることも大切です。
とくに食べたものからエネルギーを作り出すのに必要なビタミンB1やビタミンB2、ビタミンB6は積極的に取りたい栄養素として知られています。ビタミンB1は豚肉やレバー、ビタミンB2は卵や納豆、ビタミンB6はかつおやレバーなどに多く含まれていることが特徴です。
まとめ
低血圧に使われる市販品もありますが、病院で貰うような交感神経を刺激したり血管を収縮したりするようなお薬は取り扱いがありません。そのため市販品で低血圧の対策をする場合は、漢方薬を使う方法に限られます。
漢方薬は体質に合わせて使うことが重要なので、ご自分の体質を見ながら選んでみてください。また運動をしたり食事バランスに気をつけることも大切です。
ただし日常生活に支障が出るくらい強い症状がある場合は、市販品を使うのではなく医療機関を受診して治療しましょう。