【看護師解説】健康診断の血液検査でわかる10の状態|検診結果から身体の状態を知る手順

健康診断_血液検査

健康診断と聞いて真っ先に思いつくのが「血液検査」ではないでしょうか?

血液にはさまざまな成分が含まれており、全身の健康状態を反映しています。その血液を調べることで不調の原因や症状のない異常をみつけることができます。

しかし血液検査の結果をみても、いまいちその数字の意味がわからないこともあると思います。

ここでは、

  1. 血液検査でわかる10のことと
  2. 健康診断でよく目にする10の検査項目

について紹介します。

目次

健康診断の血液検査でわかる10のこと

血液検査を行うことで得られる情報はたくさんあります。ここでは血液検査を行うことでわかる10つの内容について紹介します。

1:肝機能(たんきのう)

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、臓器へのダメージがかなり進行しないと症状として現れません。肝臓病の多くは血液検査がきっかけで見つかることがほとんどです。

肝機能を調べる血液検査の項目は、ASTやALT、γ‐GTP、ALP、総ビリルビンなどがあります。いずれの値も「高値、低値だから肝臓に疾患がある」と断定できるものでなく、他の検査結果と総合的にみて判断する必要があります。

また肝がんの原因となる、B型、C型の肝炎ウイルスの有無も血液検査をすることで調べることができます。肝炎のウイルス検査は、地域の住民健診や職場の健康診断、人間ドックで受けることができます。

2:腎機能(じんきのう)

腎臓は尿をつくる臓器です。腎機能を調べるには第一に尿検査が選択されますが、血液検査も腎機能の異常をみつけるためには必要です。

腎機能を調べる血液検査の中で最も重要なのが血清クレアチニンです。血清クレアチニン値が高値だと腎機能の低下が考えられます。

他に尿素窒素(BUN)やe‐GFRの値も腎機能を調べるためにみておく必要がある項目です。腎臓の病気は自覚症状が現れにくいため検査で異常を早期発見することが大切です。

3:膵機能(すいきのう)

膵臓には2つの働きがあります。1つは食べ物を消化・吸収することを助ける酵素をつくりだすこと、もう1つはインスリンをつくり血液中の糖を調整することです。膵機能の低下を調べるにはアミラーゼやリパーゼ、エラスターゼの値を調べる必要があります。

これらは膵臓から分泌される物質です。膵臓は腹部の後ろのほうにあり触診が難しく、症状も出にくいことが多いため、病気の診断や治療が難しいとされています。

4:糖代謝

「糖代謝を調べること=糖尿病をみつけること」といわれています。糖尿病はインスリンがうまく働かないことで糖代謝が悪くなり、血液中の糖の量が多くなる病気です。糖代謝を調べるためには血液検査で血糖値を測定する必要があります。

血糖値は食事内容で大きく変動するため、食後10~12時間以上経過した空腹時に測定します。また糖尿病の初期では空腹時血糖に異常がないことも多いため、ヘモグロビンA1Cという項目も併せて調べることもあります。

5:脂質代謝

血液検査で中性脂肪やコレステロールの値から脂質代謝の状態を調べると「脂質異常症」をみつけることができます。脂質異常症を発症すると動脈硬化が進みやすくなります。

動脈硬化とは動脈の血管の弾力性が失われ、血管が詰まることをいいます。心臓に栄養や酸素を供給している冠動脈が詰まれば「心筋梗塞」、脳に栄養や酸素を供給している脳動脈が詰まれば「脳梗塞」になります。

脂質代謝の状態を調べる血液検査では、検査当日の朝食はとらずに採血を行う必要があります。また採血前日の飲酒は禁止されています。

6:尿酸代謝

尿酸と聞くと「痛風」を思い浮かべる人も多いと思います。尿酸は「尿」という文字が入っているので、尿検査で調べられると思われがちですが、尿検査ではなく血液検査で調べることができます。

尿酸は体内のエネルギーの燃えカスであり、通常は尿に排泄されますが、何らかの異常が起き産出量が増えたり排泄量が少なくなったりすると血中の尿酸値が増えます。

血液に溶けきらない尿酸は結晶化され、痛風発作の原因となります。また尿酸値はさまざまな生活習慣病に関与しており、動脈硬化につながる危険因子ともされています。

7:血液の状態

赤血球や白血球、血小板は血液の細胞成分であり、これらを調べることで血液の状態を知ることができます。赤血球は酸素を運ぶ役割があります。赤血球の中にあるヘモグロビン値の低下は貧血と関係しています。

白血球は感染がおきたときに外敵と戦う役割があり、血小板は血液を固め止血をする役割があります。これらの3つの項目は、どの血液検査でも基本的な検査項目になります。

8:炎症の状態

炎症とは、身体が何かしらの有害な刺激を受けたときに起こった免疫反応によって出現するものです。ケガをした部位が赤くなったり、熱感をもったり、腫れあがったり、痛んだりすることはこの免疫反応によるものです。

目に見えるケガは炎症があることがわかりますが、血液や臓器など身体の中の炎症はすぐにはわかりません。

血液検査を行い、CRPや赤血球沈降速度(ESR)の値をだすことで知ることができます。

9:電解質

電解質とは生命活動をスムーズに行うために必要な物質です。電解質の調整を行っている臓器の障害や、食品摂取に問題があると異常が現れます。検査項目にはナトリウムやカリウム、クロール、カルシウム、リン、亜鉛など、化学で習った元素周期表でみかけた名前があります。

  • ナトリウムやカリウム、クロールは細胞の浸透圧
  • カルシウムやリンは副甲状腺の働き

亜鉛は代謝調節に関わっています。

10:腫瘍マーカー

腫瘍マーカーとは、がんが発生すると増える物質です。複数のがんで増えるものと特定のがんで増えるものがあります。CEAは胃がん、肺がん、大腸がん、乳がんなどで、CA19-9は胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がんなどで増加がみられます。

一方、AFPは肝がん、PSAは前立腺がんで得意的に増えます。ただし、がんがあっても増えなかったり、反対にがんがなくても増えたりすることがあります。

腫瘍マーカーはあくまでもがんの補助検査のうちの一つです。

 

健康診断の血液検査で注視すべき項目と数字10選

自分の健康状態を把握するためには、各検査項目の目的や基準値、異常値の意味を知っておく必要があります。ここでは、健康診断でよく目にする10の検査項目について紹介します。

1:γ‐GTP

肝臓の解毒作用に関係している酵素です。肝臓や胆管の細胞が壊れたときの指標となります。

ポイント

基準範囲:50U/L以下

数値が高いと、肝炎や脂肪肝、胆石、胆道がん、アルコール性肝障害、胆汁うっ滞、薬剤性肝障害が疑われます。特に、100U/Lを超える場合は要注意です。脂肪肝が進行している可能性があります。

2:AST(GOT)、 ALT(GPT)

肝臓に多く含まれる酵素です。臓器が障害されると高値がでます。ALTは肝臓の細胞にのみ存在しますが、ASTは肝臓の細胞以外にも心臓や手足の筋肉にも存在します。

ASTとALTの両方が高値だと肝臓の障害が疑われますが、ASTだけが高値だと心臓や筋肉の障害が疑われます。

ポイント

基準範囲:AST 30U/L以下、ALT 30U/L以下

数値が高いと、慢性肝炎や肝硬変、脂肪肝、肝臓がん、アルコール性肝炎などが疑われます。ウイルス性の急性肝炎では数値が500U/L以上になる場合があります。

3:血清総たんぱく

血液中の総たんぱくの量を表しています。栄養状態の指標となります。

ポイント

基準範囲:6.5~7.9g/dL

数値が低いと、栄養障害やネフローゼ症候群が疑われます。ネフローゼ症候群は尿にたんぱく質(アルブミン)が流れてしまい、むくみなどを引き起こす病気です。数値が高いと、多発性骨髄腫や脱水が疑われます。

4:クレアチニン(Cr)

筋肉内にあるアミノ酸が代謝されたあとの老廃物です。腎臓の排泄機能の指標として使われます。筋肉量が多いほどクレアチニンの量も多くなるため、基準範囲に男女差があります。

ポイント

基準範囲:
男性 1.00㎎/dL以下
女性 0.70㎎/dL以下

数値が高いと、脱水や心不全、腎機能が低下が疑われます。腎機能の指標としては他に尿素窒素(BUN)があり、2つをあわせて判断します。

5:空腹時血糖(FPG)

血液内のブドウ糖の濃度です。ブドウ糖が適切に利用されているかを知ることができます。血糖値は食事により大きく変動するため健康診断では朝食前の血糖値を測定します。

ポイント

基準範囲:99㎎/dL以下

数値が高いと糖尿病が疑われます。他には、甲状腺機能亢進症や膵腫瘍の可能性もあります。血糖値が100㎎/dL以上の人は糖尿病予備軍といえます。食生活の改善や運動を行うようにしましょう。

6:中性脂肪(TG:トリグリセリド)

過剰に摂られたエネルギーは中性脂肪として貯蔵されます。中性脂肪は体内で最も多い脂肪です。過剰にあると、肥満を招いたり動脈硬化を進行させます。

ポイント

基準範囲:30~149㎎/dL

数値が高いと、肥満やメタボリックシンドローム、脂肪肝が疑われます。数値が低いと、栄養障害や肝障害が疑われます。

7:LDL‐コレステロール

悪玉コレステロールと呼ばれています。脂肪を摂りすぎると上昇します。悪玉コレステロールが血管壁に入り込むと動脈硬化の原因になります。

ポイント

基準範囲:60~119㎎/dL

数値が高いと、動脈硬化を進行させ心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険性を高めます。 120~179㎎/dLでは食生活の改善と運動が必要です。180㎎/dL以上だと内服治療が必要になる場合があります。

8:尿酸(UA)

尿酸は身体の細胞の核にあるプリン体が代謝されたあとの老廃物です。尿酸の産生・排泄のバランスがとれているかどうかを知ることができます。

ポイント

基準範囲: 2.1~7.0㎎/dL

数値が高い状態が続くと、尿酸が体内に結晶をつくり、それが蓄積すると痛風発作を起こします。痛風は痛みだけでなく腎障害も引き起こす恐れがあります。尿酸値を下げるためには内服治療や食事療法を行う必要があります。

9:ヘモグロビン(Hb)

ヘモグロビンは赤血球に含まれ、酸素を運ぶ役割があります。赤血球の検査の中で最も重要な項目です。

ポイント

基準範囲:
男性 13.1~16.3 g/dL
女性 12.1~14.5 g/dL

数値が低いと貧血が疑われます。 貧血の症状の強さとヘモグロビンの量は必ず比例するわけではありません。ゆっくり進行した貧血の場合、数値がかなり下回っていてもそれほど大きな症状がでないこともあります。

10:C反応性蛋白(CRP)

体内に炎症があると血液中に現れるたんぱく質です。手術を受けた場合、術後の炎症をはかるために参考にする項目です。

ポイント:

基準範囲:0.30㎎/dL以下

数値が高いと、細菌・ウィルス感染やがんが疑われます。CRPの上昇で何の病気かの特定はできませんが、身体に炎症があることはわかります。CRPが高い場合は原因特定のために追加検査を行います。

まとめ

血液検査は全身の健康状態を把握することができる検査です。血液検査の検査結果を受け取ったらまずは基準範囲と見比べてみましょう

異常値がでている項目はすぐに治療を必要とするわけではありませんが、そのままの状態では病気になりやすい可能性が高いです。精密検査を勧められた場合は必ず受けるようにしましょう。

また、基準範囲だけでなく、前回の結果と比較することも自分の身体の変化を知るために重要です。今までの生活習慣を見直すきっかけにもなります。血液検査を活用して健康な身体を維持しましょう。

 

基準範囲データ参照元
日本人間ドック学会ホームページより 検査表の見方

参考文献

  • 矢冨裕、野田光彦(2019)『健康診断と検査がすべてわかる本』時事通信社
  • 阿倍美和子編(2015)『きょうの健康 検査でわかること』NHK出版
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次