日本人の多くは高血圧だと指摘されています。実際に40~70歳以上の方を対象にした調査では、男性で60%、女性で40%の方が高血圧と指摘されているのです。
高血圧は珍しい疾患ではなく、むしろ身近なものだと言えます。
そこで今回は、血圧が気になり始めた方にチェックしてほしい市販薬やサプリメントなど、市販品の選び方をご紹介します。薬やサプリメントに頼らず血圧対策をする方法も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
薬剤師が教える!高血圧の降圧に期待を寄せる市販品の実態
正常血圧は120~129/80~84mmHgなのですが、この値を超えたすべての方が薬で治療をする必要があるわけではありません。
血圧の正常値
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]まずは高血圧の分類と、目標とする血圧の値について見ていきましょう。
血圧は値によって3つに分類されています。
- Ⅰ度高血圧:140~149/90~99mmHg
- Ⅱ度高血圧:160~179/100~109mmHg
- Ⅲ度高血圧:180/110mmHg以上
高血圧の状態が続くと、動脈硬化や脳血管疾患、心筋梗塞などのリスクが高まるため、血圧をコントロールすることが大切です。
どれくらいの血圧まで下げるかは、年齢やもっている疾患で変わります。[/chat]
75歳未満の成人 | 130/80mmHg未満 |
糖尿病の患者 | 130/80mmHg未満 |
CKD患者(蛋白尿陽性) | 130/80mmHg未満 |
75歳以上の高齢者 | 140/90mmHg未満 |
先ほど正常血圧は120~129/80~84mmHgだと言いましたが、一般的に降圧薬を使った治療が必要になると言われているのは血圧が140/90mmHg以上になってからです。では間の130~139/85~89mmHgの方は何をすれば良いのかが気になりますよね。
130~139/85~89mmHgの方は高血圧の予備軍とも呼ばれ、降圧薬の使用が必要になることは少ないのですが、これ以上血圧が上がらないように生活習慣の改善が必要になります。
高血圧の降圧に効果が期待できる市販薬は「ない」
市販品の活用が有効になるのも、この130~139/85~89mmHgの方であると言えるでしょう。Ⅰ~Ⅲ度高血圧の方は、市販品ではなくかかりつけの医師と相談して降圧薬を使った治療をすることが大切です。
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]しかしここで1つ、問題があります。というのも、高血圧の治療ができる市販薬はほとんどないのです。ほとんどないどころか、「ない」と言い切っても良いくらいでしょう。あるのは健康食品のみで、血圧を下げる働きが期待できる薬は漢方薬くらいしかありません。
そのため、市販品の薬やサプリメントに頼り切って血圧を下げることは現実的ではなく、あくまで健康管理という名目で使用していくことがポイントです。[/chat]
降圧薬を使っても血圧のコントロールができる訳ではない
また降圧薬を使って治療をしても、思うように血圧がコントロールできない方も少なくありません。
上記のグラフを見ると、治療をしている方のうち半数近くが血圧をコントロールできていないことがわかります。病院で医師の指導のもと降圧薬を飲んでもコントロールできないことも多いので、市販品でコントロールするのはさらに難しいことです。
降圧薬は副作用のチェックや微量な調整が必要になることもあり、病院で貰えるお薬は市販薬として売られていません。そのため高血圧を指摘されている場合は、無理に市販品で抑えようとはせずに降圧剤の使用と生活習慣の改善を第一としてください。
これらのことをまずは頭に入れておきましょう。
高血圧の降圧が期待できる薬の選び方|着目すべきポイント
市販で扱われている高血圧の薬は、漢方薬のみです。漢方薬といっても立派な医薬品なので、体質に合うものを選べば降圧作用が期待できます。
しかし合わない漢方薬を選ぶと、いくら飲んでも血圧は改善されません。ここでは漢方薬を選ぶときに確認したい事柄を確認しておきましょう。
1:体力があるか
漢方薬では、西洋薬とは違った観点からお薬を選んでいきます。体力があるかどうかも重要なポイントです。漢方薬には「証」という考え方があり、体力があるかないかも証を決める大切な判断材料になります。
体力があり、筋肉質でガッチリしている方、暑がりな方は「実証」です。体力があるのに、体力がない方向けの漢方薬を使ってもいまいち効果が出ません。逆に体力がない方が体力がある方向けの漢方薬を使ってもダメです。
漢方薬を選ぶときは、まず体力があるかないかをチェックしましょう。
2:顔色が悪かったり疲れやすかったりしないか
体力がなく顔色が悪かったり疲れやすかったりする方は「虚証」です。先ほど紹介した実証とちょうど反対になります。他に肌が荒れやすい、寒がり、胃腸が弱いなども虚証の方の特徴です。
漢方薬は体力がある実証の方向き、体力がない虚証の方向き、そして実証でも虚証でも使えるものとあります。後で紹介する漢方薬も体力の度合いによって合うもの合わないものがありますので、まずは自分がどちらに属するのかを確認しておいてください。
3:頭痛やめまいがあるか
体に現れやすい症状によっても、選ぶべき漢方薬は変わります。頭痛やめまいがある場合は、体を流れる血液以外の水分が、頭部にたまっている証拠です。そのためこの水分を取り除く漢方薬が使われます。
4:のぼせや動悸があるか
血(けつ)の流れが滞ると、のぼせや動悸が出やすくなることが特徴です。血とは血液や、血液に含まれる栄養素などを含んだもので、巡りが悪くなるとさまざまな不調をきたします。のぼせや動悸がある方は、血の巡りを良くする漢方薬が有効です。
5:イライラしやすいか
イライラの原因は多岐にわたりますが、気持ちの抑揚も漢方薬を選ぶ上で重要になります。体に熱がこもっていたり、エネルギーが不足したりするとイライラが起きやすくなるため、これらの対応でいる漢方薬を選んでいきます。
薬局で高血圧を下げる適応が期待できるおすすめの薬はある?特徴は?
ここからは、高血圧に使われる漢方薬を5つご紹介します。それぞれどのような体質の方に向いているのかを詳しく解説しているので、ぜひ自分に合うものを見つけてみてください。
1:釣藤散(ちょうとうさん)
高血圧の他に、頭痛やめまい、耳鳴りや肩こりの症状がある方に適している漢方薬です。以下のような方に向いています。
- イライラしやすい
- 胃腸が弱い
- 体力がない
1-1:なんで良いのか?
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]釣藤散は、体力が低下しているときに受けたストレスによる体調不良を改善する漢方薬です。ストレスを受けると、私たちの体は血の巡りが悪くなります。すると、うまくエネルギーを作れなくなって体の働きが低下したり、体に熱がたまったりします。[/chat]
釣藤散は、含まれている人参や生姜が胃の働きを良くし、石膏が体の熱を冷やしたりして、これらの症状を改善していくものです。結果として、エネルギ-不足や体に熱がたまることによって起きた高血圧を改善します。
ただし、効果が出るまでに数日から数週間かかることに注意が必要です。
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2:七物降下湯(しちもつこうかとう)
更年期障害にも用いられることがある七物降下湯は、以下の体質の方に向いています。
- やや体力がない方
- 胃腸障害がある方
- のぼせや肩こりなどの症状がある方
2-1:なんで良いのか?
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]七物降下湯は、血の巡りを良くして、たまっている熱を取り除く漢方薬です。釣藤散はストレスが原因でしたが、七物降下湯は主に栄養不足からくる諸症状に用いられます。[/chat]
配合生薬の地黄や芍薬などが不足している血を補い、黄柏がたまっている熱を冷ます処方です。効果が出るまでに数日から数週間かかることに注意しましょう。
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3:黄連解毒湯(おうれんげとくとう)
高血圧や胃炎、皮膚疾患などによく用いられる漢方薬で、以下のような方に適しています。
- 比較的体力がある方
- のぼせやすく、顔が赤い方
- イライラしやすい方
3-1:なんで良いのか?
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]黄連解毒湯は、とにかく体に熱がたまりやすい方向きの処方です。体にたまった熱は血圧を上げる原因にもなるため、熱を冷ますことで高血圧の改善にもつながります。配合生薬の黄連や黄金、山梔子などが熱を冷ましてくれることが特徴です。[/chat]
30~40代くらいでイライラしやすい高血圧の方に使われます。
[itemlink post_id="506"]
4:大柴胡湯(だいさいことう)
糖尿病や肥満、気管支喘息などにも用いられる漢方薬です。以下のような方に適しています。
- 比較的体力がある方
- 便秘気味の方
- 耳鳴りや肩こりがある方
4-1:なんで良いのか?
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]大柴胡湯は、腸を刺激する生薬が配合されているので、下痢気味の方には向きません。胃腸が弱い方も使用は避けましょう。これまで紹介した漢方薬と比べると、非常に多くの角度から体に働きかけることが特徴です。[/chat]
熱を冷ましたり水分の流れを改善したりすることで血圧を下げるように働きます。
[itemlink post_id="510"]
5:柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
ストレス性の疾患に用いられることの多い柴胡加竜骨牡蛎湯は、以下のような方に適しています。
- 比較的体力がある方
- 不眠や不安など精神不安がある
- みぞおちのつかえがある方
5-1:なんで良いのか?
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]たまった熱を冷ましたり、水の流れを改善することで効果を発揮する漢方薬です。ストレスが原因で体調を崩しやすい方に向いています。配合生薬の竜骨や牡蛎、黄金や大黄などが熱を冷ましてくれることが特徴です。[/chat]
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薬で血圧を下げるのはリスクがある?
- 「降圧剤を使って血圧を下げるのは、かえってよくない」
- 「降圧剤を飲んで血圧を下げても意味がない」
このような言葉を聞いたことがないでしょうか。降圧剤を飲んで血圧が下がるのは、薬を飲んでいるからであり高血圧そのものが治るからではありません。
降圧剤を飲み続けるリスク
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]降圧剤は、一度飲み始めたら何年にもわたって飲み続けることが基本です。そのため「薬を飲み続けるのは体に悪いから、できたら降圧剤も飲みたくない」となってしまうのでしょう。
薬を使って血圧を下げることにリスクがあるかという話は、結論から言うとリスクはあります。具体的には、以下のリスクが考えられます。[/chat]
- 血圧が上がる原因に気づけなくなる
- ふらつきやめまいなどの副作用が起きることがある
薬を飲めば血圧が下がることから、どうしても「なぜ血圧が下がるのか」ということを忘れがちになります。また降圧剤は血管の水分を外に出したり血管を広げたりするものが多いので、どうしてもふらつきいやめまいなどの副作用も起こりやすくなるものです。
リスクがない薬など存在しない
ただしこれは、何も降圧剤だけに限った話ではありません。リスクがない薬など存在しないものです。たとえ痛み止めや風邪薬のように市販で買えるお薬であっても、すべて何かしらのリスクがあります。
痛み止めも漫然と使用していれば痛みの原因に気づけないことがありますし、飲みすぎで胃腸を悪くされる方も多いです。風邪薬を飲むと眠くなるのも、立派な副作用です。降圧剤だけにリスクがあるわけではないので、気をつけましょう。
降圧剤を飲まないことによるリスクもある
[chat face="pixta_43559145_M.jpg" name="木村妃香里" align="left" border="gray" bg="none" style=""]ところで、逆に降圧剤を飲まないリスクをご存知ですか?
そもそもなぜほとんど症状が出ないにもかかわらず高血圧を治療する必要があるのかというと、高血圧が他の疾患を引き起こす原因となるからです。
たとえば、最高血圧が10mmHg上昇することで、脳卒中のリスクが男性で約20%、女性で約15%も高くなることがわかっています。心筋梗塞や狭心症、慢性腎臓病のリスクも上がることが明らかです。[/chat]
どの疾患も命に関わる可能性があることから、血圧を日頃からコントロールしてリスクを減らしておくことは、とても重要なのです。
血圧が少しでも高ければ必ず降圧剤を飲む必要があるわけではありませんが、薬を飲むリスクよりむしろ、飲まないリスクにしっかり注目しなければいけません。
薬に頼らず高血圧を改善するには?
Ⅰ度高血圧の方もⅢ度高血圧の方も、そして予備軍の方にも共通して大切になるのが、生活習慣の見直しです。食生活や運動習慣に気をつけることで、血圧を下げることができます。
また知らずに飲んでいる血圧を上げる可能性のある市販薬を止めることも、血圧を下げることにつながるでしょう。降圧剤の使用がまだ必要ないくらいの方でしたら、健康食品を使うのも良いですね。ここからは、薬に頼らない高血圧の改善方法をご紹介します。
1:食生活を見直す
食生活はとても大事です。とくに血圧が高い方は、塩分を控えることが重要になります。私たちの体は、塩分を摂ると血液の水分量を増やして塩分を薄めようとします。
すると心臓が1回で送り出す血液量が増えるため、より強い力で血液を押し出さなければならなくなり、血圧が上がるのです。
日本人の塩分摂取量は平均で男性が11.0g、女性が9.2gです。
引用元:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所|日本人はどんな食品から食塩をとっているか?―国民健康・栄養調査での摂取実態の解析から―
しかし塩分摂取量の目標値は、男性で8.0g、女性で7.0g未満となっています。
実際に摂取している量と目標値はまだまだ離れていますので、塩分には気をつけなければなりません。
- 味噌汁1杯で約1.2g
- カップ麺やラーメン1食で約5.5g
- ハンバーガー1個で約1.5g
塩分が含まれています。意外とすぐに目標値は超えてしまうので、日頃から意識したいところです。
2:運動する週間をつける
高血圧を改善するためには、30分以上の運動をできるだけ毎日することが推奨されています。年齢を重ねることで血管の弾力性が低下して血圧が上がるのですが、運動によって血管内皮の機能が改善されるのです。
運動は高血圧以外に糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病にも有効ですので、ぜひ普段の生活に取り入れましょう。
高血圧治療の基本は生活習慣の修正と降圧薬治療ですが、高血圧症の発症や予防には習慣的な運動や身体活動の増加が有用であることは多くの研究により証明されています。また、治療や予防に推奨されている運動療法に関するガイドラインも確立されてきました。
引用元:高血圧症を改善するための運動 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
3:喫煙を止める
タバコに含まれているニコチンは、血管を収縮させる働きがあります。血管が収縮すると血液の通り道が狭くなり、押し出すのにいつも以上の力がかかることで血圧が上がってしまいます。
一時的ではありますが、1本吸うことで約4mmHg、2本連続で吸うことで14mmHg上がることが明らかです。喫煙本数が多い方ほど血圧が上がっている状態が長く続きますので、少しずつ本数を減らしましょう。
喫煙が血圧に与える一過性の影響
喫煙により一過性の血圧上昇を引き起こすことは以前から知られており,たばこ1本を吸った場合,15分以上持続すると言われている1)。
日本人の正常血圧を対象にした研究2)では,収縮期血圧は,1本喫煙では3.8%(4mmHg)の上昇があり,喫煙終了の30分後に安静時レベルに戻ったが,2本連続喫煙では13.1%(14 mmHg)の上昇があり,30分経過しても安静時レベルに戻らなかった。
引用元:診察直前の喫煙が血圧に与える影響|Web医事新報|日本医事新報社
4:血圧に影響する市販薬に気をつける
何気なく飲むことの多い市販薬の中には、高血圧の方には適さない成分が使われていることが少なくありません。
鼻炎薬や風邪薬に配合されている「プソイドエフェドリン」や「メチルエフェドリン」は、血管を収縮させる働きがあるので血圧を上げてしまいます。とくにプソイドエフェドリンの血管収縮作用は強く、重症の高血圧患者には使わないようになっていることが特徴です。
市販品の鼻炎薬や風邪薬を買われる際は、これらの成分が入っていないものを選びましょう。わからない場合は、薬局にいる薬剤師や登録販売者に聞くと教えてくれます。
5:健康食品を活用する
血圧が高めの方向けの健康食品を使ってみるのも良いでしょう。血圧を低下させるヒハツやクロロゲン、ペプチドを配合したものが売られていますので、続けやすいものを選んでみてください。
ただし健康食品は薬ではないので、飲んで必ず血圧が下がるわけではありません。あくまで補助的に使うことが大切です。
まとめ
病院で貰うのと同じような高血圧の薬は、市販品にはありません。しかし漢方薬でしたらいくつか取り扱いがあります。体質によって適切な漢方薬が変わるので、自分に合うものを選びましょう。
また市販品には血圧が高めの方用のサプリメントもありますので、こちらを活用してみるのも良いですね。
ただし血圧が140~149/90~99mmHg以上ある場合は、市販品に手を出すのでははく、医師の診察を受けることが優先です。